堀川惠子 永山則夫 封印された鑑定記録 (その2)
永山則夫 封印された鑑定記録
この作品はNHKでも映像番組として放送され、作者の堀川惠子さんは経緯を語っている。
テープ記録が発見されそこには「歴史を覆すようなこと」が数多くあったという。
世の中では四十何年間、金欲しさの犯罪だと言われていたけど、実は、根っこには家族の問題がありました。これは、ただ単に個人で持っておくものではないと思い始め、最初は本にするつもりで出版社と話を進めてやっていました。でも、文字にして書くものと実際に聞く声というのは全然違うと思い、やっぱりこの音を残さないといけないんじゃないかという気持ちが出てきました。(堀川さん)
「本当にその事を知りたいという人が手に取って」この事件を考えるために、消えてしまった事実をもう一度見つめなおし、死刑という裁きを一考しなければならない、というような熱意を感じます。
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永山則夫の精神鑑定記録の存在は、<死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの>を取材するときに、録音テープとして残っていることを知ったと書いています。
「記録は鑑定を担当した石川先生が持っていらして」「二年半がかりでお願いをして、心を許して」もらって堀川さんは詳しい取材に入ります。
「今、少年事件というのは実は減ってきているのですが、でもやっぱり時々大きな事件が起こる。そういう時に、どうして少年が人を殺すのか、普通簡単には起こりえないことがなぜ起こるのかと考えるときに、未来のことは分からないから過去に起きたことに学ぶしかな」く、信じられないような根気で作者は録音を解析したのでしょう。
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その1冊が「永山則夫 封印された鑑定記録」です。
信じられないようであり一方で確かにそういう家庭が存在してもおかしくなかっただろう。実際にわたしが生まれた田舎の山村に住む80歳を超える母の昔の様子を聞き出しても、なるほどと思うところが多い。
想像をできないほどの荒んだ貧しさがあるのだが、その時代に豊かな人もあった。わたしの従兄弟や会社で上司、高校時代の担任の先生は、昭和23年から26年ころに生まれた戦後のどん底の世代でありながらも大学を卒業している。貧困とか格差という言葉はこの時代にもあったのだということも紛れもない事実で、日本の何処かで苦しんでいる人がいた。
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永山則夫は、なぜ彼が四人も人を殺したのか。堀川さんは、実際にテープを聞いて動機を明確に掴んでいく。永山の動機は、(貧しさや生活の事情により自分を追い込んだ)家族に対する恨みでした。こんなことをやったら家族が困るだろうという「あてつけ」の為の事件だった、と断じています。
しかし、それだけで終わってしまったら、この事件そのものと記録の隅々にびっしりと秘められている大事なものの大部分を棄ててしまっていることになります。
堀川さんはあとがきで、「今回,永山の100時間を超える独白と,それを引き出した石川医師と改めて向き合うことで,あまりに普遍的な『家族』というテーマに行き当たりました。」と書いています。
犯罪とは何か、罪とは何かを考えることはもちろんですが、人の心とはどんなものか、家族とは何か、幸せとは何か、という問いかけを常に頭のなかに置いてこの本を読み続けたのでした。
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