こぼれ話 4 雨宿り 花も嵐もⅡ その63
バイクツーリストに雨降りはつきものであるものの、やはり降られるのは嫌です。朝起きて荷造りのときに雨が降っていたりしても泣きそうになる。
今回は、朝からの雨ではなく、山中で遭遇する突然の夕立の話です。
四国の与作国道(R439)を西に向かって走っているときでした。今は与作も拡幅されたりトンネル化されていますけれども、わたしが走っていたころは、徒歩の歴史的な峠道の脇にできた荷車道程度のものです。しかし、このタイプの峠が、バイクで越えてきた経験では最も素晴らしく、いわゆる初期型の峠越え街道でした。
そんな感動的な道を越えてゆくのですが、一度、峠の途中で突然の夕立に遭遇しました。高知県のど真ん中あたりにある追手前高校吾北分校の生徒さんたちのバイク通学の列に挨拶されたことがありましたが、その付近でのことです。(吾北分校のみなさんとの出来事とどっちが先だったかは今となっては記憶が曖昧です)
夕立は突然来ました。ツーリングも年季が入ってくると、すばしこくなるのですが、のんびりのびのびと山の中を走っていたのでしょう。雨が突然来たので、道端の小さな庇がある小屋に飛び込みました。立っていても足元が少し濡れるほどの小さな屋根でした。雨も容赦もなく降りました。それだけにほんと助かりました。
この屋根の下に、わたしが飛び込んだときに間髪をいれずに飛び込んできた女性がありました。いいところに、ちょうどいい小屋があって助かったね、というような話をして小降りになるのを雨雲を見上げなから二人並んで待ちました。
どこまで行くの?と聞いたと思いますが、答えは覚えていません。どこから来たの?も聞いたけど、それも記憶に無い。旅から帰った直後はバイクの名前も記憶していただろうけど、それも忘れた。
名前や連絡先を聞いて、地図の隅っこにメモをしたりすることも頻繁にありました。このときのこの人との記録は残っていませんが、今でもふと四国の深い山の中に散らばった集落を見るとあのときの通りがかりの出来事を思い出します。
ただ、今思うに、このごろのバイクツーリストってわたしのあのときのように、気安く、そしてざっくばらんに話を始められないようで、今と昔のバイクの旅文化にも少し変化が出てきているのかなと思います。
寂しい峠を一人で越えてきた女性はまだ結婚前の若くて可愛らしい子でした。あのころは、というような話をしてはいけないのかもしれませんが、みんな純朴で、旅に、ツーリングに、清らかな心で向きあっていたと思います。今のようにファッショナブルでもなく、合理的でもなく、格好もスラっともしていない。
だから、その旅人とのわずかな出会いでさえもが、旅の強烈な思い出に残るような、そういう小さな出来事の集まりのツーリングをみんながやっていて、ときめきを胸に走っていました。
もうそんな時代は来ません。
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