(続いてきて)、おしゃれ
(続いてきて)、おしゃれ
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それほどオシャレな人ではなかった。だから私があの人のオシャレの何を回想しようとしたのか。このメモを書いたときの心理を思い出せずにいるのだが、推測は着く。外れのない推測。
子どものころの写真が何枚かどこかにあった。あったというだけで満足している。今ここで出してきて偲ぼうというセンチな気持ちはそれほどない。自分の頭の中にある記憶が一番頼りになる。
その写真では、鳥打ち帽を被って、分厚い外套を着ている。昭和30年代に三十歳くらいだった若者は、みんなそんな格好をしていたのだ。伊勢神宮の内宮の鳥居の前で私は肩車をしてもらっている。
農作業をするか、山仕事をするか、寝てるかだけの暮らしの中で、洒落た背広も着たかっただろうにな、と思う。
テーブルマナーはよく知っていた。とある席に父と座らねばならなくなったことがあり、父が心配でドギマギして慌てたことがあった。しかし、無用であった。私よりも安心してみておれたのを思い出す。
何も知らない人だから、恥ずかしくもなく、わからないことがあったらすぐに尋ねるからよく知っているのだと母は言う。
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」とよく口癖のように私に言った。
おしゃれのことを書きながら、あの人には「オシャレ」というもじよりも「おしゃれ」のほうが合うような気がしてきている。
(続く)
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