おびき寄せる
836 妻子あるひとなんですと恋語る見習い介護士キシくん二十歳 砂女
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ここではいささかの酔いがあったうえでのこの綴り文なのかどうかは、不明のままとして、ヒトはひとつの場面のページをめくるときにひとつの言葉を用意しているように思うことがある。
あなたがそれを抱いていたかどうかは、私の勝手な想像で、当たりであってもハズレであっても構わない。ただ、この御茶目でありながらも真剣をぎゅっと握りしめたような想いを読んで、久しぶりに出会った「おびき寄せる」というモチーフに大きく心を揺らされた。
そうよ。あなたと私はいつもおびき寄せあいながらこうしてここまで暮らしてきたのね、と私の妻に語り掛けたい衝動に駆られる。
たったひとつの言葉が、この人の足音を実物のように頭のなかで響かせてくれ、風の音まで送り込んでくれる。煙が目に染みる。夕焼けの色が褪せてゆく。
四度目という数字を、もし会うことがあったら口にすることができるのだろうか。
私も会いたいが
あなたもさぞや会いたかろうに。
二つのグラスに、酒を注ぐ音までも届いてくるようだ。
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