物語は進まないほうが愉しいかも。その8
たいしたものだ。バカンスということで、7日間ポルトガルに滞在して、のんびりと過ごしてきたそうです。
女ひとり旅。
── 訳ありと思われるんじゃあないですか?
なんてことは質問したりしたらアカンのよね。
そういうわけで先日。あら、いつだっけ。そうだ、24日月曜日だ。
お昼にこの人の居る部屋の前を通り、すりガラスに動く人影に気をとられながら、下りの階段に差し掛かったとき、彼女が現れまして
── あら、(食事に) 今から行くのですか。
(洗面かロッカーに行くつもりだったらしいのを少し迷いながら)
一緒に行こうかなー
というので、私は心にもなく
── 別に一緒じゃなくてもいいですけどね
と、断るわけではないが、拘っているわけでもない素振りをして彼女を置いてけぼりにしたのです。
ひどい奴だとお思いでしょうが、そうでもないよ。心は。
*
というわけで先に食堂で食べていましたら、飄々と現れて、私の席の隣が空席なのを見ながらほかのテーブルに行こうとするので、まあ、それはいささか迷いながらの様子ではあったので、
── どうぞ、おいで
といったら、素直に隣へ。
私の横が嫌なんだろうか。
それとも知っている人の隣は嫌なんだろうか。
ゆっくり1人で食べたいのだろうか。
座り心地の良い好きな席があるのだろうか。
などと、いっぱい気になることがありながら、言葉で切り出したのは
── ポルトガルでしたっけ?イタリアでしたっけ?
と白々しい質問だった。そして答えを待たずに、
── ポルトガルでしたよね。写真とか見せてくださいね。メールでびゅーんと送ってくれれば簡単やから。前にメール書いときましたけど、あそこになかなかくれないし、何か理由でも…… (もぞもぞ)
そういう内容を話したと思うのだが、彼女の答えは
── メール書いてありました?
だったのでした。
なんだ全然気にかけていないのか。天然なんだろうか。そうでもないと思うが、ひょうきんさは人一倍ありそうだ。負けん気も意地も十人分くらい強そうだし、はて、私の軟弱振りがバレてもまずい。
── (天の声) そんあのすぐばれるもんよ。正体なんて少し話せばもうバレバレやと思いなさい。
というわけで、メールをくれれば写真が見れるのでメルアドを教えてくれれば返信を送るし、と言ったのだったか、メールを入れておきますと先に言われたのか、記憶に無い。頭の中は混乱していたようで、本能の自動操縦状態。
お昼休みにデスクのPCに連絡をくれたらしいのに私が気づいたのは3時を回っていたので、仕事中にデスクのPCから個人的なメールを送るわけには
行かず、定時を待ってから教えてくれたケータイに連絡が届いたお礼のメールを送った。当然、写真も見たいのでそのことも書き添えた。
職場からの坂道を降りながらそんなメールを送って、メールが分かったということに非常に安心をし、なんだか一日が終わったほどにだらーんと落ち着いてしまって、列車を待つ間にもぼーーっとしていたのかもしれない。
胸のケータイがブルルと震えたので、何気なしに見てみると彼女からのポルトガルでの写真だった。なんと早い返信だ。(暇なんやろか)
ケータイにメールが来たのブルルンと
そんなふうにして月曜日の夕暮れは終わっていった。
*
どんなことをメールで話せばいいのか、
何を尋ねればいいのか、
難しい。
悩みは尽きない。
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(その8)を書いたのが10月26日であるからおよそ2ヶ月の日々が過ぎていった。 その間に、何の花が咲くわけでもなく、嬉しい出来事があったわけでもなく、大きな変化が起こったわけでもなかった。 メルアドを教わったのでときどきメールするけど、以前にも触れたように、話題がないので困る。寒いですね、とか、クリスマスですね、とか、ディナーに友だちと行ってきました、とか、そんな程度だ。 「シルク・ドゥ・ソレイユ」に行ってきます、なんてメールが届いたこともある。 そんなふうに、なかなか接近ができずにいる。 ちかごろ... [続きを読む]
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