火葬場
静かな山間の炭焼き小屋のような火葬場で私の父は荼毘にふされた。
コンクリート炉の中に棺桶ごと突っ込まれ、バタンという無機質な音を合図に点火のスイッチが押された。ここまでで全てが終わりだと私に向かって念押しされたような幕切れだった。そしてそのあとすぐに、寂れた小屋から煙が立ち上り始めるのを見ていようとも思うことなく、私は火葬場を立ち去ってきた。
今振り返るとどうして、あのとき、あそこで煙が漂うのを眺めることもなく帰ってきてしまったのか、私らしからぬ行動だったと思う。諦めともとれないし、経験の浅さとも言い切れないのだが、何かしら冷たい自分がそこにあるのだ。
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