かんビールをポンとぬいて… ─ 9月号
いよいよ秋らしくなりました。お月様も日に日に名月に近づきます。
今年の夏は記録的な暑さということもあり、ビールなどの「のどごし」を刺激する飲みものがたくさん売れたのではないでしょうか。
武田泰淳の奥さんの武田百合子著「富士日記」(中央公論新社)を読むと、泰淳はいつもビールを飲んでいます。
「かんビールをポンとぬいて…」と泰淳がねだる様子が昭和51年9月の日記にも書かれ、この月を最後に日記は終わり、泰淳は10月5日に胃がんと肝臓がんで逝ってしまいます。
富士日記には、家計簿的な日常も書かれていて、昭和39年ころから泰淳が亡くなる昭和51年までの様子や、そのころの人々の暮らしが随所に出てきます。
昭和39年のころは大卒初任給が2万円あまりの時代でした。武田泰淳ほどの人物でありながら、メザシであるとかもやしのあえ物などという非常に質素な暮らしをしていることも伺えます。
およそ10倍になった現代、豊かさとその満足度を環境的な視点で振り返るだけでも面白く読めます。
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このメルマガを書き始めた初旬のころ、巻頭で「残暑お見舞い申し上げます」と書き出したのですが、一日一日と過ぎるうちにさすがに猛暑は衰え始め、ツクツクボウシも上手に啼くようになり、夜半には虫の声も聞こえてくるようになりました。
暑さ寒さも彼岸までといいますが、まさにその通りであることに驚きます。そして彼岸といえば彼岸花です。この花も毎年、この時期に間違いなく咲きます。自然の生き物は、不思議をたくさん含んでいて驚かされるばかりです。
秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる
暑かった夏を忘れて、しばらくの間、感性を刺激してくれる秋をお楽しみください。
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