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2010年7月 3日 (土曜日)

出逢いの風景(1) 【カットバック】  [第27話]

2006年03月16日

7月初旬。街を歩くと汗が吹き出る季節だ。梅雨とはいいながら毎度のこと雨は降らず空梅雨が続いたのに、その日はジトジトと雨が降っていたような気もする。思い出からは「ありのまま」は消えて行き、そこには理想のドラマだけが残っている。そいつが「ひとり歩き」を始めてゆく時に、ほんの些細な日常が美しいラブストーリーに変わってゆく。

銀座のソニービルの前で私は女性を待ち続けた。「北海道中央バスの終点、『余別』のバス停の前の売店でアルバイトをしていた眼鏡をかけた女の子様」、と書いて手紙を出したのはそれから4年前の夏の出来事であった。北海道の旅から帰って一枚の葉書の返事が届いていた。何通の手紙を書き、またもらったことか。しかし、不思議にもその間に写真は一度も同封しなかったし電話もしなかった。顔ももう忘れている。雰囲気は美化されていた。

梅雨の頃のある日、手紙が久々に舞い込んだ。消印がS市だったのに気が付いた時は心臓がドキンドキンと音をたてるのがわかるほど高鳴った。○○という名字は珍しかったので「もしや・・・」と思った。夢中であった。消印の街や近くの街の電話番号を調べた。なり振りかまわず、迷惑も考えずに深夜に電話をした。一度しか逢ったことのない、しかもこちらから手紙を書いた女性が逢えるところに住んでいるなんてことは夢のようだった。

そんな女性にこれから逢おうというのである。「電話番号を調べるのにはほんとうに苦労したぜ、東京に就職したのならすぐに言ってくれなきゃ!」と切り出そうかなんて考えながら、ひたすら待ち続けた。「4年の歳月は永いようで短くもあった」と言ってもいいかな。ニヤニヤしていたかも知れない。

しかし、約束の時間は過ぎた。待ち合わせをする人の波の中でさりげない振りをして女性を待ち続けた。ひとり、またひとりと待つ人が消え、新たに待つ人が立ち止まる。幾人の笑顔を尻目に見たことか。時間はまだまだ過ぎていく。貧乏学生が銀座のOLに逢おうと言うのである。これがそもそもの間違いか。遠巻きに私を見て消えたのか。銀座の街の雑踏は重苦しく、何の面白味もない。

人の予感とは動物的である。ひとりの女性と視線が合って止まった。じっと動かない。街のざわめきが消えていく。私の脳は存在しない記憶を拠り所なく探し続け、時は秒読みで過ぎる。再会の瞬間であった。

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