98年 鎧駅
<98年のツーレポから>
《鎧駅》 [5/1ー0]
念願の鎧駅である。「ふたりっこのロケ地」という看板が出ている。やめて欲しいなあ。私の鎧駅なのに…。
幼い日に母に捨てられた兄と妹は、それぞれ、自分の深い想いを持って海岸列車に乗り鎧駅を訪ねる。宮本輝は小説「海岸列車」(文春文庫)の始まりの章で
駅から入江への急な斜面には、かつてサバ漁で賑わった鎧港の名残として、錆びて風化した鉄のレール敷きだけが一直線に下りている。陸あげしたしたサバを列車に積み込むためのケーブルの残骸であった。その横に、村へと下りていく折れ曲がった錆色の道がある。列車の車輪とレールとが撒きちらす鉄粉によって色を染めた道は、ほんの数十メートルで、黒ずんだコンクリートに変わるのだが、かおりは、その道の錆色の部分しか歩いたことはない。 (上巻25ページ)
小説に出
てくる向こう側のホームのベンチも、またそれが海側を向いて置かれていることも、そこから見下ろす港に倉庫らしい建物が見えることも、私にとっては期待通りでありまた新鮮で嬉しい。
ひとりごとをぶつぶつ言いながら私は周辺を歩き回っている。そしてぼんやりと海を眺めては、時々、シャッターを切る。畑で仕事をしているおばあちゃんにはそんな姿が変に映ったかも知れない。それでも私は、向こうのホームに行ったりこっちに来たりを繰り返していた。時刻は 8:20頃で、下りの列車が来てホームに止まった後、二、三分で上りの列車が入ってきた。降りる人も乗る人もいない。列車の中の人影は疎らで、行き交う列車を遠巻に私は眺めていた。やがて重そうな車両を動かすためにディーゼルエンジンの音を山に反射させて列車は動きだした。黒い煙の匂いが私の所まで届いて、その後、列車はまたトンネルに消えて行った。さて、鎧駅はここまでにしておこう。
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