スズムシや親父なきとて今も啼く
◇ スズムシや親父なきとて今も啼く ねこ作。
秋になると実家の庭では鈴虫がなく。静かにふけゆく夜に透き通るようなその声は悲しく響く。
父は、幼少時に耳を患ったこともあってかなりの難聴だったが、スズムシが啼く風流をとても好んだ。耳を澄まして聴いていた姿が思い浮かぶ。
お風呂の追い焚きをするために焚き口に行き薪を放り込みながら、「湯かげんはどうやぁ?」と尋ねてもまったく返事がないこともあったし、逆に、風呂から遠く離れた台所の片隅で何かを大声で誰かが話しても、風呂の中から「ええかげんやでぇー」と返事をしていることがあった。
世界の中のあらゆる音が、私の半分にも満たないほどしか聞こえていなかったであろうに、虫の声や風の音を、繊細に感じ取ろうとしていたのだろう。それが磨かれたものであったのか、不可欠な感性だったのかは不明のままだ。
子どものころの我が家は、田舎づくりの旧家屋だったので、じめっとした裏庭は苔がむして、鈴虫の他にカエルやヘビも居たしウシガエルも啼いた。懐かしいことが次々と思い起こされてくる。
いや・・・・スズムシが啼いているのを耳にしたので、親父がそこに居て耳を澄ましていた風景を思い出しただけである。
「おい、コタツを出そうか」と言うているような気がしただけである。
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