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2006年6月11日 (日曜日)

第28話【花も嵐も】 砂の器の亀嵩駅へ<島根県>

「砂の器」(松本清張著・原作、野村芳太郎監督)という名作映画があった。高校時代だから1972年ころだろう。伊勢市内でのロケもあって、地元でも少し話題になったのを覚えている。

島根県の亀嵩が重要な土地で、もちろんここでもロケもあったそうだ。亀嵩はこの映画で有名になったといっても過言ではない。もしもこの小説に出てこなければ、私は亀嵩を知ることなどなかっただろう。

1993年の日記には「朝、亀嵩駅に着いて蕎麦屋さんで食事をした」と書いている。知る人ぞ知る駅舎が蕎麦屋さんになっているところだ。先客が一人居て驚きいた。お店の人の話によると、映画を見て訪ねてくる人が絶えないらしい。

700円の蕎麦定食を注文したときには、NHKの連続ドラマのテーマ音楽が奥の部屋から流れていた。蕎麦屋の店と駅が床続きになった待合い室のベンチで、ひとりの女子高校生がディーゼル列車を待ちながら読書をしている姿が、蕎麦が届くのを待つ私のテーブルから見えた。列車はしばらく来る様子もないのに人影がぽつぽつと増え始める。田舎特有の駅の待合室の風景だった。

鄙びた田舎の風情が満ちて溢れている食堂の壁には、映画ロケのときに俳優さんやスタッフで撮った写真が飾ってある。日焼けしたり色あせてしまっているものも多い。

今までに何度もこの駅舎を訪ねたことがあるけれど、再びこうして立ち寄ってくつろいで蕎麦を食いに寄れるところがあることと、ここから次の旅先へと旅立てることが私にとってこのうえない歓びです。

食べ終わって席を立つと同時に同年代風の男性が一人やって来て、カメラを構えてパチパチとやり始めた。その人の目的や気持ちはよく分かる。本を読んだか、映画を見たか、しかないのだ。

小説を読んだ人であれば、ここを訪ねる人の気持ちを少しは理解していただけるだろう。
名作は不滅なのだ。

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