第21話【花も嵐も】 ひよいと四国へ<四国>
種田山頭火が詠んだ句がある。
ひよいと四国へ晴れきつてゐる 山頭火
私も、まさにそういう気分で徳島へと上陸したことがありました。
初めて行った四国の旅では、どこに行くと面白いかという情報をまったく持たないまま和歌山から船に乗ります。
フェリーの中で色々と話の相手をしてくださったご婦人から「剣山」を教わりました。
先ずは国道439号線で西へと向かいます。
国道439具線は「よさく国道」としてもその名が有名です。
走り始めてみると思ったよりも険しい道だったのでドキドキしながら走ったのを思い出します。
別の国道へとそれて土須峠を越えて、剣山スーパー林道に少し踏み込んだりしながら、剣山の東側から南側へと山を越えてゆきました。
山の景色が素晴らしいので随分と道草を喰って走りました。
テントを張れるところを探しながらどんどんと走って、遂に海岸まで辿り着き、日和佐駅で寝ることになってしまいます。
野営をするのも駅で寝るのも初めての経験でした。
真夏の旅だったので、明かりに虫が集まり、蚊に刺されながら眠ろうとしました。
ホームのベンチへ行ったり待合い室のベンチへ移動したり、駅前のロータリーの中の芝生で寝てみたりして、時間を過ごすのに苦心をしました。
枕元を沢蟹がサラサラと歩き回っていたのを覚えています。
眠れぬ夜に、それはもう終電が行ったか、もうすぐ来るか、そんな時刻に、バイクの若い子がひとり、駅にやって来ました。
少し話をします。
暑いので夜に走ることが多いという。
既に横になって眠ろうとしていた私とどれだけ話していただろうか。
先に私が眠ってしまいました。
夜中に一度、目が覚めたときはまだ近くで寝ていたのに、朝、起きたらもうバイクもその子の姿もなかった。
まだ夜が明けない時刻に、ひとりひっそりと旅立って行ったらしい。
きっと、私を起こさないように静かに、バイクを押して駅を離れていったのでしょう。
私のタンクバックにメモが挟んであって「お先に…」と書いてあった。
粋なことをしてくれるもんだ、旅人さん。
そんな切ないことがありました。
その子のこと。
就職が決まって、来年(93年)から近畿日本ツーリストに行くのだって言っていたような気がする。
きっと素敵な旅の案内人になっていることでしょう。
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