空が悲しい - 霜降篇
あの旅の途中の青い空の下で、山の向こうの見詰めながら、目指す村に辿り着く夢を語った夏の日があった。道ばたに屈んで雑草を引き抜きながら、片寄せ合って二人で夢を考えていた。
そう、あの村のどこかで別れてきた女のことを、十年近くも前に棄ててきたオンナのことを、何を今更考えてみたころで始まらないじゃないか。悲しい素振りなんかやめてくれ。
あの旅を途中で切り上げて、二人でそこで暮らそうなんて、淡い恋物語を考えても仕方ないことなのだ
十年経ったらあの村で小さなペンションをやれたらええな 美味しいキノコの料理を考えよう
そんな会話は マボロシだ
二人が目指した村にあれから一人で行ってみた。何もない寂れた村を確かめてみたかった。小さな神社の角を曲がって、ひっそりと山陰にある沼のほとりを通って急坂を降りると廃校があった。もう何年も誰も耕さなかった田んぼがあって、枯れた草が生い茂っていた。
ひとりじゃ旅にもう出流ことはない。あいつは 記憶から消滅しようとしている人だ
鳥のようなオンナだったあいつを想うと、きょうの夕焼けは何故か悲しい色に思えてくる
空が冷たくなるほどに、燃え尽きるように空が赤い。
鳥になれなかった俺を思うと、ああ、空が悲しい。
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【銀マドとは】 (※銀マドとは、銀のマドラーのことです)
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