みちのくに別れ告げるや月見草
「待てど暮らせど来ぬ人を宵待草のやるせなさ」
その歌を口ずさみながら鄙びた山村道をトコトコと走ってゆく私がいました。数軒ほどが点在する集落と別れを告げ、遥か彼方に幾重にも折り連なる大きな峰を見て、旅が折り返し地点を回っていることを寂しく思いながら街道の国境を越えてゆきます。
1週間以上の旅をすると人恋しくなり、我が家も恋しくなる。その一方で、旅の本髄である好奇心とファイトも絶頂期に向かってゆく。気分は凸凹しながら、ときにはセンチに呟いてウソのない自分を愉しんでいる。
黄色い花が、美しい。
山仕事の爺さんを見つけたのでバイクを止めて
「この花はなんていう名前ですか?」
と尋ねた。
「決まってるべさぁ、月見草だべぇ」
と教えてくれた。
バイクの旅は見掛けより過酷で、焦げつく太陽光線と熱風が身体を襲う。早く峠道を走り抜けてしまいたい一心だが、この黄色い花の名前が気に掛かる。世界のブランド物を知ることや雑学知識を誇ることよりも、今は、この道をゆく自分がこの花の名前を知らないことが何よりも悔しいのだった。
きっと誰もが野山の雑草などを美しいと思わないだろう。しかし、私にとっては重要な花でした。あの山のあの場所で旅の途中で出会った可憐な黄色い花。
ほんとうは・・・・
「大宵待草」(オオマツヨイグサ)というのが正しい名前です。爺さんが教えてくれたのは、みんながそう呼んでいるだけで本物の月見草は別にあります。
■ みちのくに別れ告げるや月見草
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