峠の上にはシャガの花が咲いていた。
わき道にそれると鬼ヶ城の方面へと抜けられるらしい。
女性軍団はそちらのほうに行くルートを知っていて、鬼ヶ城に車を止めてこの峠にチャレンジしに来たものらしい。納得する。
人には誰も会わない。
でも山の中から誰かが大きな音を立てて駆け下りてくるのが聞こえる。すごく元気な人だなと感心していると、ドドドと近づいてきた足音の主が茂みから私の前に飛び出した。
鹿だ。
奈良公園の鹿よりももっともっと大きくて太い。走る姿は馬のイメージが近いかも知れない。
対面してたら腰が抜けたかもしれない。
カメラは間に合わず。
田植えの終りつつある田んぼの中をゆく。
自転車も押してゆけないような細い道もある。
休日なのでのんびりとしているおうち等もある一方で、
忙しく畑での仕事をしている人もいる。
今は夏の準備で忙しい。
案内のイラストにも描かれているが、
この小さな道しるべを見逃すと必ず迷子になってしまうだろう。
家々では普通の生活をしている人々の姿がある。
田んぼには田植えの人が腰を二つに折っている。
石畳は容赦なく続くが、波田須の道といわれるエリアは初級レベルといっていい。木陰がやさしい。
民家のなかを歩いていると、とても甘くて惹きつけられる香りがするので、嗅ぎまわってみるとツツジの花が庭に咲いていた。写真を撮ればよかったな。
素敵な集落だった。
古道は、ひっそりと静かな佇まいのなかを行く。足跡も都会の靴で汚れていない。石がいい。土もいい。
国道よりもずいぶんと高いところに、普通に民家が点在している。車が上がってこれる道路などはどこにもなく、この家々の人は眼下の車道までは急峻な坂道と石段を数分かかって駆け下りなければならない。
車を持っていたとしても国道の近辺に置くしかない。
峠の手前で国道R311を少し歩くものの、すぐに山岳道に入る。
木陰であるにもかかわらず汗が噴き出す。暖地性のシダが群れている。竹薮もある。タケノコを堀散らかした跡が点在しているところもあった。
掘り逃したのか、そこまで欲がなかったのか、お手ごろの大きさのものが道の脇にニョキッと出ているのにも出会う。
民家の垣根の間を抜ける。
後ろを振り返ると新鹿の海と砂浜がとても綺麗です。
旅人も歩いた道なのだ、と海を振り返りながら思う。感慨を胸に満たせて登ってゆく。
季節はずれの海は大好き。
新鹿駅まで美しい海の景色が続く。窓に貼りついたままになってしまう。
新鹿駅で降りたのは私一人だった。駅前で遊んでいた小学生に声をかけて道を尋ねると、猫の通り道のような路地を教えてくれて、しかも先導して簡単にR311まで案内してくれた。とても素敵な軒先の道。
きょうはここから熊野市まで歩く計画で、まずは、駅の先にあるトンネルの上を回りこみながら峠に上ってゆく。
波田須への道の始まり。