どうしてもこの作品を書いた人をああだこうだと定義づけて作品の感動とペアにして心にしまっておきたいと思うのだ
そう思わせてくれるような作品であり、読みながら何度も立ち止まって詩人のような変な小説家だと少し悪口じみたことを呟いてみたりする
そのしばらくあとで何ページかを読んだところでほら哲学者みたいなことを書いているから物語の後ろにはドラマにならない構想がどっさりと隠れているんだろうなと思っていたりする
しかしながら乙女チックには気取らないし気障でもない詩篇のようなことを歯が浮くような下手くそなタイミングで書いている
いいえそれは計算どおりなの
いいえそれがセンスというもの

真似ができない
真似しようと思うのが愚かなのか
でも手を伸ばせばそこにいるような普通の変なおばさんな筈だから私にだって真似ができるような気がするの

「諦めること」をサラリと書いて付箋を貼ってしまうそうになるんですけどここで付箋を貼ったらその行だけが一人歩きするからあかん
満月のお月見の話もそこまでで私の脳みそにメモるだけで烈しく読み返したくなったらもう一度最初から読もうじゃないか

「世界の深さ」のこともあれこれと書いてるでしょ
物理学の教科書みたいに一本の式を紐解けば五ページくらいの文字で埋まるように
付箋を貼りたいところは五倍くらいに言いたいことが詰まっていたはずだ

だから明日になったら私も忘れてしまえばいいのだろうな
ある日思い出したら誰かがこの話をしたらもう一度思い出そう

好きだという言葉も使わないで恋をしているし愛もしている
誰もが夢の中で追いつけなかったようなあのできごとを思い出そうとしている

でもこの人はきっとアルキメデスみたいな考える人なんだと想像してしまって私は深い深い記憶の沼に沈んでいくのです

宮下奈都 静かな雨