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宮本輝;にぎやかな天地(上) おぼえがき

にぎやかな天地(上) 宮本輝 を読み終わったところで、おぼえがき。
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「そやけど、そうやって必死で自分のなかから引きずり出した勇気っていうのは、その人が求めてなかった別のものも一緒につれて来るそうやねん」と涼子は言った。(232p)

にぎやかな天地(上)を読み終わった。この部分がいいなあ。いつものようにさり気なく、人物に語らせている。

「その人のなかに眠っていた思いも寄らん凄い知恵」
「この世のなかのいろんなことを大きく思いやる心」

宮本輝が物語を、どんな思いの中で思考しながら作り上げていったのかは、ご本人にお聞きするしかないのだが、読み手はその連鎖反応で幾つもの情景を連想しながら物語に没頭してゆく。

私の心を大きく揺さぶりながら、小説と、自分の人生の軌跡とを重ね合わせるように本のなかに私は埋没してゆくのでした。

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図書館で借りる人についても書いていた。
「学生であるとか、経済的に苦しい状態にある人だけではなく、本というものに金を使いたくないという理由でそうする人が多くなっている」

「図書館の概念は、書店でみつけることの難しい専門書や全集や、いまや絶版となった名著を市民が読めるようにするところであり、好きな本を自由に手にできない青少年たちに優れた書物と出逢えるようにするところ」(348-349p)

と書いている。(そう考えている主人公を築き上げている)

そんな箇所に、大きく頷かされながら読み進む。このあたりから、いよいよ宮本輝らしくなってきたなあ。
でも、昔の作品と比べると人生を振り返るような気持ちのところも多いなあと感じながら…。

「死ぬ前の、いったい何年間が満たされたら、人間は幸福やろって考えたんや。人生の何たるかを知り、必要なだけの金があり、生きとることが楽しくて仕方がなくて、自分と縁のある人たちも、いろいろと悩みはかかえとるが、まあなんとか息災にやっとる。ああ人間に生まれてきてよかった。頑張って生きてきてよかったと・・・・・。そういう時間を、人は人生の最後に何年間くらい持てたらええのかなァと考え」(362p)ている。

そこには、宮本輝さんが、流転の海シリーズでも登場させている松坂熊吾という父親のことを脳裏にはっきりと描いていることが分かる。大きな畏敬の念があってこそ出来上がってくる作品である。

道頓堀川や春の夢などに背景になったであろう人生前半のあの頃のこととそういう時代の人たちが現在の作品の基盤になっているのだ。そんなの当然だといえるのだが、ただ売れればいいという小説ではなく、この人が揺るぎなく小説に架ける情熱のようなものを、私は肌で感じながら読んでいる。
| 2008-05-14 09:01 | 読書系セレクション |