楽天大将

楽天大将を、30年ぶりくらいに再読しました。
レビューは、改訂すると思いますが、とりあえずアップします。
色あせてボロボロになっているのが、なんとも、卒業してからの日々を物語っているのだな。

しかし、学生のころに読んで感じたことが、蘇えってくるから不思議です。
赤鉛筆で線を引いているところがあるのですが、まさに同じところでそう感じているから。

まだの人。どうぞ。
裏切らない作品ですから。

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楽天大将は、「おバカさん」、「わたしが・棄てた・女」と並んで遠藤周作の傑作です。

随所に、遠藤周作ならではの書き方があるし、彼が持っている小説の風景がある。口癖もあるし、ひょうきんさも出てくる。物語のなかの人々の暮らしに 彼の暮らしや日常の話す様子が重なり合う。

悲しい瞳で見つめる小鳥、寂しそうに歩く子犬、定年を間近に控えた老いぼれの刑事、惚れた女性に一途の若い記者、それらを取り巻く人々の顔ぶれ。い い人、悪い人、そこにある不条理。遠藤周作は、日常生活のなかで非日常的なストーリーを創造し、作品の中でいとも簡単に手品のように物語を作り上げていっ てしまう。

純文学作品の中でそれらは、綺麗に飾り付けされ文学色を纏って出てくるのだが、軽めの小説では熟成される前の姿で作品に登場する。

全作品を読みとおした人なら、誰もが感じていることだろうが、このあたりが遠藤周作の小気味良さでないだろうか。

作品の主題には何も隔たりは無い。彼が目指しているものが知りたければ、これらの作品を読めばいい。そういう小説であるといえる。

彼の純文学を読んで彼の本髄に迫ることは大事なことなのだが、彼は照れくささを隠しながらもマジメに考えて、ひとつの作品として楽天大将をまとめあ げた。

30年が過ぎた今の時代になっても決して陳腐化しない作品であった。

…と書きながら、東京の中を描写する部分などを読むと30年前の東京を思い浮かべています。

この作品は昭和53年9月に文庫で出版されている。私はその第1版を買っていますが、遠藤さん、この頃から遠藤的手法を尽くして「聖女」を書いてい たんですね。

もしも尋ねたら、
「志乃は聖女なんですよね」
「そんなことは聞かなくてもよろしい」
きっとそう言われるのでしょうね。

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(第1版では400円、昭和53年9月15日)
| 2008-04-23 16:20 | 読書系セレクション |