竜馬がゆく 司馬遼太郎著 文春文庫

ひとりの青年がこの文庫を手にしていたので声を掛けた。そしたら目を潤ませて「ほんと、熱くなりますよ」と応じてくれた。こちらまで嬉しくなってしまった瞬間だった。
「あなたの理想の人は誰ですか」と訊ねると坂本竜馬だという若者も少なくなったかな。四国、土佐の国を旅するとそういう一本気な旅人に出会う事が多い。そういう私も「竜馬がゆく」を片手に土佐に旅立ったことがある。

司馬さんの小説には一種独特の語りがある。それが何かというと、物語の本筋から少し脱線して、しかも少し長引くところにある。ドラマではあまり許される手法ではないのだろうけど、彼の小説にはそれがあるから面白い。竜馬がゆくにどれだけ脱線があったかは記憶にないが、物語にぐいぐいと引き込んでいく魔力がある。だから、その魔力が利きすぎて四国へ旅立つ人が跡を絶たない。

かくいう私も99年の黄金週間には「坂本竜馬・脱藩の道」を辿っていた。天気は快晴。高知県、梼原村への旧街道の峠道を味わうようにトレースした。出かけ前には「街道をゆく・27」も読み返してきた。梼原村に入って、関門旧跡の前でひと息ついて四万川から坂本川沿いへとバイクを進める。六丁なんていう在所がある。そこを越えて韮が峠に私は立った。この峠から生まれた土佐の町を竜馬は振り返ったに違いない。そしてこれからの時代への夢と大志を抱いてこの峠を下ったのだろう。

ひとつの歴史なんて自然の生命からしたらちっぽけなのかも知れない。しかし、そのちっぽけな歴史を多かれ少なかれ動かしたひとりの人とその精神がこの峠で、もしかしたらある決意をさらに固くしていたのである。竜馬の脱藩は文久2年3月24日。桜は七分咲きの頃だったと「竜馬がゆく」には記載されている。
上の記述は私があるミニコミ誌に書いたものです。(ミス記述もそのまま)
読書系では、竜馬がゆくをまだ紹介していなかった。
それは大事なものを取っておくような感じにも似ているけど、出し惜しみしても仕方ないし、また何度書いてもいいものはいいだろうから、ここで書いておこう。
| 2005-01-30 10:21 | 読書系セレクション |