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2016年4月22日 (金曜日)

宮本輝 田園発 港行き自転車 (上)(下)

宮本輝 田園発 港行き自転車 (上)(下)
2016年4月21日

15年前に父が急死した地・富山で、父の足跡を辿る絵本作家の賀川真帆。東京での暮らし が合わず、富山に戻ってきた事務員の脇田千春。出会うことのないはずのふたりの人生が思いもよらない縁で繋がっていく、富山の美しく豊かな自然を舞台に描 かれた長編小説です。人の思いの強さや、それによって繋がっていく人と人との縁…ぐいぐい物語に引き込まれていきます。

yuri mizutani さんの装画が素敵です。コレ

さて わたしの読後感想富山県を流れる黒部川にかかる愛本橋が物語に登場する。この端の少し下流に「墓の木自然公園キャンプ場」というところがありわたしは平成13年8月18日にここを訪れた。この作品よりも遥か昔、今から15年ほど前です。

その明くる日には周辺を走り回り道の駅でトイレを借りたしながら独特な景色と格別に違う風が吹いていると感じた田園地帯をブラブラと散策しながらバイクで巡った。ここで登場する愛本橋も走って通り過ぎた違いない。

だが、写真を見て思い出すことはできない。けれどももう一度行けば確実に記憶がよみがえる気がする。あのときにこの田園地帯で感じた風の匂いと水の せせらぎにここにしかないもの凄いパワーを感じていた。日記では言葉で明確にはしていないが、黒部の山々と小さな扇状地に漂う畏敬のようなものを確実に感 じ取っていた。

もっとむかし、さらに15年ほど遡って1984年にも富山平野を横切っている。それはクルマで東北を目指した旅の途中のことで、高速道路は富山平野の中ほどまでしか開通しておらず、京都から走ってきた終点は滑川インターで、黒部川は一般国道である8号線を走って越えた。

川が急流なことはもちろんだが、有名な割には川幅がそれほど広くないし水が脈々と流れているわけでもないのに、どこか異色の景色を放っていた。それ が石のせいだと気づく。しばらく考えているとわかってくる。山から急斜面を流れだした水はあっという間に海に到達するから、蛇行したり河原を作ったり、石 が砕けて砂になるような緩やかな流れはないのだ。

二度目にこの地に旅してきたときにも初めて来たときの強烈な印象が蘇った。ただ、せせらぎに手を差しのべてその水の冷たさや美しさに触れたのは墓の木自然公園にテントを張った時が初めてだった。

この本を読み始めながら次第にそのときの感動が蘇ってきて、宮本輝が蛍川に書いた富山への熱情と合わせて、この作品の感動を整理しなくてはいけないなと思う。

そうすると、宮本輝が作品の書き出しで大きく息を吸って深呼吸をしたかもしれないような息づかいまでもがわたしの中に満ち溢れてきて、仕事で書いている4月号のメールマガジンのあとがきでも紹介をした。

宮本輝さんは「田園発港行き自転車」という小説を<私は自分のふるさとが好きだ。ふるさとは私の誇りだ。何の取り柄もない二十歳の女の私が自慢できることといえば、あんなに美しいふるさとで生まれ育ったということだけなのだ>と 書き出しています。ちょっとしたきっかけで読み始めたこの作品は、富山県を舞台にして立山連峰と黒部川と富山湾を背景にした田園地帯と、この豊かな自然の 中で織りなす奇跡的な出会いのドラマです。この作品の中には終始偉大な自然に育まれた豊かな心の人々が登場します。作者は冒頭で「自慢できる」という表現 をしています

という具合に震えるようなものを感じ取ったのだった。

全てはこの書き出しにある。

作品は現代屈指のストーリーテラーである宮本氏が魔術のように人間関係を練り上げ、それぞれの出会いや事件の場面を絶妙に切り刻んで並べて、ヒトの真正面の生き方を宮本美学的に綴り、味わい深いドラマにしている。

TVや映画でのドラマではなく宮本氏が詩篇を意識したような風景や心の描写で、時には(いつものようにともいえるが、宮本流の)思わぬ展開や出会いで編み上げていってしまう。
作者はこういう複雑で、実際にはありえないような(ドラマチックな展開を)螺旋のようにもつれた関係や展開を味わい深く作品の中に散りばめた。

確かにいつものように退屈なところもあるのだけれど、それもお見通しかもしれず、作品の結末を構想しながら絶妙にあれこれを集約してくる。

書きはじめるときにラストシーンをはたして固めてあったのか、3年近くも書き続けながら熟成するものなのか想像の領域外だが、散りばめた感動を纏め て、幾 つもドラマを投げ出して走らせてストンと終わってくれるところなどにも、この人の真面目で哲学者で詩人でお茶目な面を感じる。

作品の完成度としては大雑把に真ん中(星3つ)くらいと思っている。新品を買ってきて手垢も付けたくないというような作品にはならなかったが、どん な一流のドラマや映画も寄せ付けない味わいを持っている。それはコレこそがドラマなんだというスリリングなものでもあり、人間の生き方へのひとつの提示で あるのかもしれない。

「禍福はあざなえる縄の如し」と明確に引用をしていた作品もあるのだが、この作品では言葉自体には触れていない。螺旋の人生を送ってきた人だから書ける作品なんだろうと思う。

あとがきから
わたしは、螺旋というかたちにも強く惹かれます。多くのもののなかに螺旋状の仕組みがあるのは自然科学において解明されつつありますが、それが人間のつながりにおいても、有り得ないような出会いや驚愕するような偶然をもたらすことに途轍もない神秘性を感じるのです
本文から
好不調はつねに繰り返しつづけるし、浮き沈みはつきも のだが、自分のやるべきことを放棄しなければ、思いもよらなかった大きな褒美が突然やって来る

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