神去村(旧美杉村)のこと ─ 春土用篇
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三浦しをんさんの「神去なあなあ日常」という旧美杉村が舞台の小説が映画化され、5月10日から公開される予定で、ちょっとした話題になっています。
話の筋はシンプルですが感動的です。
大学受験に失敗し彼女にもフラれどうしようもないままで高校を卒業した勇気といういい加減な男子が、美人のパンフを見て林業の研修を決意し山深い田舎にやってきます。その村が神去村(旧美杉村)で、携帯電話も通じない駅に降り立ち大きなショックを受けるところからお話は始まります。出会ったことのないような生き物に驚き、人生を急展開させるような人間関係に揉まれながら、厳しい林業体験を経て、大きく成長していく物語です。
ヒトは、大きな自然の中でまっすぐに生きていくことが本来の姿で、それを夢見て生きている。生物や植物のように命あるものを生み出し、それを育てながら、将来はその恵みに自らも育ててもらう。そして、自然に、あるいは文明が開けていない時代の人々たちは、地球上に数々の神を棲まわせながら、それらに畏敬を感じ恩返しをしながら生きてきた。文明がどれほど進んでもヒトはいつかそのことに気付いて来たわけだし、地球というものは永遠の恵みを与え続けてきたわけだ。
そのことは教科書に載っている話ではないが、全く大仰しくもなく、宗教じることもなく受け継がれてきた。
ドラマは、そんな大層なことをテーマにしているわけではないけれども、ちょっと形のないものに心を奪われ過ぎではありませんかという緩やかな提案のようにも思えてくる。
◎
合理性を追求し机上で(利益を生み出しさえすればいいというように)発展していく暮らしの経済とは別次元のところにある百年二百年のサイクルで恵みを与えるものを(それは林業や漁業だけではないものも含めて)疎かにしてはいけないと「神様」が暗示しているようだ。だからタイトルにも神が存在するのではないか、と妙に納得させてもらえる。
作者である三浦しをんさんのお祖父さんは美杉村の出身だという。三浦さんは当然都会っ子だからこの作品を書くために美杉村を訪ねた時はさぞやびっくりなさったことだろう。環境と森林の行政部門と一緒になってPRもしてもらい、(私も来庁のときに偶然に文庫を持っていて名刺を見せて私の名前宛にサインまでもらえて)、全国のみなさんに村を広く知ってもらえれば嬉しい。
映画作品はコミカルでありながらも地味でそんなに大仰しいものではなく、年齢層のターゲットも広いように感じる。映画のPRは壮大にやっていますが、もっと娯楽的に捉えて、自然というキーワードでしばらくモノを見つめてみる機会とすればいいのではないでしょうか。
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旧美杉村の話を書きながら長閑な山村を思い浮かべ気持ちもリラックスしました。豊かな水量を誇り緑を流す雲出川、そしてそこ右岸左岸にはおいしいお米が収穫できる小さな平野があり、そのなかを真っ直ぐに東西に延びるローカル鉄道の名松線が走っています。のんびりと走り行くディーゼルカーと沿線の自然を背景に休日にはデジカメを持って走り回る鉄道ファン・写真ファンが増えつつあります。
林業のお話も面白くて魅力的ですが、この超ローカル線も、映画のロードショーをきっかけに注目してもらえるといいなあと思います。乗っているだけでも楽しい列車なのですが、沿線には自然と触れあえるところがたくさんあります。何よりもこれらはポテンシャルが高いにもかかわらず、今はそれほど有名ではないので、東北のリアス式海岸を走る列車や四国山脈に点在するド田舎を貫くローカル線などがTVや雑誌に登場するたびに、名松線も是非!有名にさせたいと思ってしまいます。
神宮がある伊勢市と京都を結ぶ歴史街道がいくつも残り、太平洋・熊野灘という大自然の海に守られたところに当県は位置します。世界遺産の熊野古道などもあり、大きく胸を張ってアピールしてもいいと思います。しかし、自分たちの環境の素晴らしさに地元民が意外と気付いていないのです。こういう環境に暮らせることは幸福なのだと知り、恩返しのためにも未来に受け継がねばならないのです。
(写真は、名松線を元気にする会FACEBOOKから)
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