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2013年10月18日 (金曜日)

伝えるということ

旨味と甘味

父は甘い物が好きだった。そんな気がする。

いや、とりわけ好きだったわけでもなかったかもしれないが、みんなが甘いものを嫌いだと言って顔を顰めるときでも、さらりとひとくち食べている姿が記憶にある。

もしかしたら、甘いものを受け入れる分、左党ではなかったのかもしれない。

だが、ついぞ、好き嫌いの話を聞いてみたこともなければ、そのことで酒飲み談義をしたこともなかった。

何が好物だったのだろう。秋に旨いものが食卓に並ぶたびにそんなことを思い出す。

--

▼穭田のひっそり朝を待つ季節

そんな季節が訪れた。

父はズガニを捕るのが名人級だった。

秋になると毎朝、夜明け前から川に出掛け籠いっぱいのカニを捕り、茹でて、旨そうに食べていた。旬を愛した人だったのだ。

投網も上手だったので、一年じゅう川に出掛けていた。

その中でも、ズガニがとりわけ好きだった。しかし、特に誰にも賞賛されるでもなく、その腕っ前も知る人ぞ知るというものだった。

そしてその腕前の凄さが、やはり後年になって明らかになってくる。何故、あのときに一緒になってその腕前を引き継がなかったのか、残念で仕方がない。

松茸山の在り処もズガニ捕りのコツも、根っこつ(根っ子の木の置物)の仕上げ方も、わたしは教えてもらおうとしなかった。今思うに、自分という人間はなんて思い上がりの激しいアホなやつだったのかと反省をする。

一子相伝という言葉の通り、父の技と心を受け継ぐことが大切だったのだと気付いたのは、亡くなってからひと昔以上が過ぎてからだった。遅すぎた。

あの人の感じていたことを、今のわたしが受け継いでいれば、あの人と旨味談義を交わしていなくても、答えは自明だったのだろう。

伝えるということは、何事においても、無言であるのだ」というようなことを、たびたび説教じみながらも話していた父のしたたかな視線と手さばきを思い出す。

▼ズガニ捕る水の冷たさ子は知らず

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