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2013年4月15日 (月曜日)

一子相伝

先日、母の様子を見に家に帰って、少し昔話をしてもらった。わたしも驚くほどとても正確に時系列的な話が次々と続く。

わたしにはとても真似のできない記憶力で、出来事の流れを非常に的確に整理して頭のなかに仕舞ってあるのがわかる。

わたしの祖父は和一さんといった。妻が「るい」さん。和一さんの父は「よっさん」で母が「みね」さん。

祖父・和一さんは村会議員で、曽祖父・よっさんは村長だった。おるいさんは、鍛冶屋の家に生まれて商売はそれなりに繁盛した時期もあったようですが、子どもの頃に母に死なれてしまって裁縫もできない人だったらしい。一方でおるいさんの姑だったおみねさんは、武家の血脈を持つ山田家から嫁に来た人で、裁縫も達者で学もあり字もスラスラと書けたという。

わたしの母がお嫁に来た昭和二十年代後半には、おるいさんもおみねさんも生きていたし、和一さんは家長として威厳を誇っていた。おみねさんは、わたしが生まれたときもまだ生きていて、面影は全く記憶にないが、おばあさんがいたことは何となく覚えている。和一さんはわたしが小学校に上がる頃まで生きていたけど、これも写真が誘発するイメージだけなのかもしれない。

そして、父には兄弟姉妹があって、弟二人(叔父さん)、姉(伯母)と妹(叔母)があった。わたしが生まれたときは、姉さん以外はみんな家にいた。わたしを入れて9人家族だったことになる。母は、一般的にいうよそからきた普通の「嫁」で、鬱陶しい義理の兄弟やら親に囲まれて暮らし始めたわけだ。

子どものころに住んでいた家は、昭和の初期に建てたもので、昭和30年ころに萱を瓦に葺き替えて、昭和60年近くまであった。家の真ん中に8畳間が4部屋、土間の台所との間に6畳ほどの板間の居間があった。さらに土間の隅っこには2つ連なった大きな竈と子どもの胴体よりも太い煙突があった。土間を挟んで背戸(東側の通用口)があり家の正面に構える玄関との間に牛小屋があって、その横に風呂がある。風呂に浸かっていると湯舟の肩から牛が顔を出してきた。牛小屋の横には6畳ほどの下部屋(しもべや)と呼ぶ小さな生活の部屋もあった。便所は外。その先に味噌部屋と物置として使う小屋があった。後に2階建てで上が4畳半と8畳、1階に4畳半と車のガレージを持つ小屋に変わる。その小屋はわたしの父が日曜大工でコツコツと3ヶ月ほどで建てたものだった。木材もうちの山から切り出して、製版も自分でした。

家屋そのものは大きいのだが、住んでいる人数も多かったので、現代の新妻だったら一瞬も我慢ができないというか、嫁入りする前に病気になってしまいそうな状況だ。

母は、あまりその頃のことを悪い言葉で回想しないが、涙も枯れるほど辛かった日々であったのは間違いなく、思い出しながら話す言葉が淀むのがわかる。60年の歳月でもはや許してもいいと思っているのかもしれない。今更、という気持ちもあろうか。

和一さんは時代の先を読める人だったと繰り返していう。頭が良くてよく切れる人だったと今でも褒める。世間でいう意地の悪い姑や姑の悩みは抱いたこともなかったようで、時代に相応の扱いだったという。しかし、現代に当てはめたらきっと非常に悲しく厳しい物語になるだろう。そのことはあまり口には出さない。

とにかく、賢くて立派であったと誰もが口をそろえていう。その息子だったわたしの父は、あまり大袈裟に褒める人もないが、この人も嫌われる人格ではなく、悪口を言おうとしても何ひとつない人だった。仲人も数えられないほどしたし、ある意味で慕われていたのだろう。役場の寂しい職員だった。

祖父から父へ何が受け継がれたのだろう。そんなことをときどき思い、さらに、父から息子であるわたしに何が受け継がれたのであろうか。

じっと頭を冷やしながら考える。
わたしは何を受け渡せるのだろうか。
そういうことを考える年齢になっている。

白い紙に「一子相伝」と書いてみる。
落ち着いたいい言葉だ。

子どものころの家

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