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2013年2月11日 (月曜日)

宮本輝 三千枚の金貨 

数々の宮本作品を読み重ねてくるうちに、この作家自身が老いぼれてくるのがわかるような気がする。 それは、遠藤周作のときでも阿川弘之のときでも、そして司馬遼太郎のときもそのように感じたのだが、作家は作風の骨幹は変化させないのだが、少しずつタッチを変化させ、味付けも色合いも年寄り臭くなってゆく。

遠藤周作の場合は、彼自身の持ち味を生かして、初期の段階の作品の重厚な味わいを熟成させるように変化していった。司馬遼太郎は、著しい変化を見せないものの、彼自身の若さが漲った作風から、落ち着いた作風へと変化を遂げながらも、普遍的な視点を貫いた。

宮本輝 三千枚の金貨(上・下)

さて、宮本輝は、と考えながら読んで行く作品となった。

春の夢を手にして薄暗く寒い四畳半で読んだころときがあった。あれから随分と時間が過ぎて、数多くの作品が生まれ、想像以上の人々に作品が読まれてその感想を聞き、作者自身もメディアにも顔を出し、有名になり名誉も得て、ファンで居られる歓びのようなものを与え続けてくれる。ちかごろは、老眼ということもあって読書のパワーに衰えがあるものの、久々の文庫ということで大きな期待で読み始めた。

もれなく素敵な女性が登場しまして、こういう人を作品のなかに登場させるのはとても上手で、物語を如何にも小説らしくまとめあげて行くワザも感動的だと嬉しくなる。そして、バランスよくタイミングよく、作者の人生観と言うか人間観というか、そういうものを散りばめてゆく。だから、飽きることなく、多少詰まらないところでも、別の視点で食いつきながら読んでゆくことができる。

しかし、作者が人生の後半戦に差し掛かってから書く作品に、文学的な苦みのようなものを欠いてきていると思うのは私だけであろうか。

司馬さんや遠藤さんで感じられたことは、作者は独自の路線を完成させて、それを少し甘辛くそして独自の作風として纏めて、じじいの文学にしてゆくワザがあった。白髪の司馬さんは白髪のヘアスタイルが放った司馬ふうの硬くて且つとろりとした論法で読み手を楽しませてくれたし、遠藤さんは文学性を神髄には持ちながらも売れっ子で少し掠れてしまう自分をはにかむように文学を書き続けた。

宮本さんは、流転の海は特別として、作品に打ち込むこだわりと言うか過剰なほどの熱のようなものを感じなくなっている。悪く言えば手抜きで、もはや忘れ去ったのかとも思えることがある。だから、宮本作品の意地のようなものをお座なりにしてストーリーを作り続ければ、やがて本当の宮本作品を待っている人は、昔の作品の幾つかと短編集だけを持ってどこかに消えて行ってしまうような気がしてならない。苦くも渋くもない作品を読み続けながら、無用な心配をしてしまったのだった。

最後は金貨を掘ることもなく、暗示を投げかけて幸福感をそっと置いてくれる。小説とは映画ではないのだ、こうなくてはならないのだ、と切って棄てるようなふうにも思えるのだが、作者の老いぼれぶりが大好きだった遠藤さんや司馬さんとひと味違うことを歓んでいいのか悲しんでいいのか、考え続けている。

◆(追記)

もしも、私の目の前に実在したら、私は必ず方向を見誤ってしまうような魅力的な女性が描かれている。

宮本輝は、そういう女性を描くのが天才的にうまい。室井沙都が水墨画先生(小宮先生)のことを話すところがある。

書きとめておきます。(上巻192ページ付近)

「小宮先生は、水墨画の基礎だけを教えて下さるの。 筆の持ち方、墨のすり方、墨の濃淡の作り方…。○を何百回も描いて、次は横線を一本、それも何百回も描いて、」

 どんな世界にも基礎としての決まり事がある。 この決まり事をしっかりと修得しておかないと、自分独自なものは生まれてこない。いわば不動の型で、それをおろそかにして我流で次ぎに進もうとしても必ず行き詰まってしまう。

 「いまはとにかく自分で描きたいものを忠実に写生するようにって言われてるの。鉛筆でいいのよ。でも忠実な写生でないと駄目だ、って。適当なデフォルメは断じて認めない。風景をスケッチするとき、遠くの電線四本を、ずるして三本にしてはならない。瓦屋根の瓦の数を誤魔化してはならない。私、それを先生の仰有るとおりにやってて、ひとつ気づいたことがあるの」

「私はこれまで風景を見ても花を見ても、人間の顔を見ても、じつはなんにも見えてなかったんだ、ってこと。 斉木さんも一度やってみたらいいわ。 奥さんの顔がいちばんいいかもしれない」

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