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2011年8月21日 (日曜日)

角田光代 八日目の蝉

(中公文庫)

映画にもドラマにもなったということを先入観として持ちその作品を毛嫌いしてはいけないぞと自分に言い聞かせる。映画もドラマも見たくない。

このごろは「小説家」に対して「原作家」というスタイルの人が多く、話だけ組み立てあげて叙情的なもの叙事的なものを綴ろうとしない人が多い。綴る才も無いのかも知れないが、こういうのを私は「語力」の欠乏と考えることにした。

角田光代には、持ち前の語力がある。新聞小説を書き上げて、それがいっそう腕力を持ち始めたという感触がある。全体的に作品を眺めれば苦心もあろうと思うが、それが角田スタイルということにしてもいいのではないか。

書き出しで、
「ドアノブをつかむ。氷を握ったように冷たい。その冷たさが、もう後戻りできないと告げているみたいに思えた。」
と始めたのだが、作者はこのときに「後戻りできない」何モノかをほぼ完成された形で描いていたのだろうか。

人間は冷酷でありながらも厚情な面も持ち、やさしさも親切さも持ちながら、厄介なものから逃げ出したりする。いい人でも嘘をついたり騙したりすることもある。もちろん、そういう人をいい人とは言わないのかもしれないが、私たちはそんなことが分かっているけれども、「後戻りできない」愛(と呼んでいいのか) に足を踏み込む。そんなものDNAであるはずがない、と言い切れないから悔しい。

人はみんな真剣に生きている。だから、彼女が赤ん坊を連れ去るときにも「がむしゃら」に走る。一生がむしゃらに走り続けて、それはDNAで受け継ぐ。遺伝学でそんなことがあったらいつか世界中には「がむしゃら」な人ばかりになってしまうのだが、そうならないから摂理というのは上手く出来ているのだ。

誘拐犯としての逃亡の最後を迎えるときのことも「ほかの記憶は曖昧なんだけれど、その日のことだけは、覚えている」と書いているように、私たちは曖昧さを心の中に棲まわせて、後戻りが出来ないまま生きている。

子どもの眼から見れば「つまり母は逃げていた」ように見えた。でも、後戻りしたくないから、誰だって正義でも悪者でも、逃げることは必要なんだなと考えてしまう。そう思うとほっとする。

「面倒なことからは逃げる人だもん」と恋人のことをいう。そう言えるのは自分が好きだからと分かっているからなのだが、このあたりが作者の少し手ぬるいところであり、また、とてもいいところであると思う。

作者が女性でなく男性だったらどのような物語になってゆくのだろうか。弱くて最低のオトコは少し未熟感を漂わせるかわいい女性が書くとそれが妙にリアルになって面白い。

物語の結末は誰もが推測できるようなものだ。しかし、この人の語力はそれでは済まさない。物語は新聞で毎日届けられた。読み手の心を揺さぶる。お涙ちょうだい、としてはいけない。心を震わせて夕日のようにストンと落ちて、明日に繋げなくてはならなかった。後はDNAに任せるのだろう。

文庫の帯のコピーは映画の宣伝文句ばかりになっているものの、間違いだとは言わないのであるが、どうしても似合わない「サスペンス」という文字で白ける。ありえない話であるし、人によってはありえる話と思うのかもしれない。その心の動きや喜怒哀楽の節々はきわめて日常であるだけに恐ろしく現実めいた錯覚が読者を纏う。

生きる歓び、愛する歓びであるとか、日常の感動などが、人見知りをせずにおおぴらに語り前面に出して追及できる時代になっている中で、人が人を愛する掟の裏に潜んでいる「後戻りできない」感情というものは、それが事件であろうが夢であろうが、心の中に棲み続ける。がむしゃらに走り抜けるためには、八日目でなくてはならなかった。

オトコでも同じだと思う。

--
R0

八日目の蝉  角田光代

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