2017年4月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            
フォト
サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想
無料ブログはココログ

« 関野 吉晴 グレートジャーニー―地球を這う | トップページ | 竜馬がゆく 司馬遼太郎著 »

2010年10月20日 (水曜日)

高村薫 3冊


高村薫著 レディ・ジョーカー

(はじめに)

うーん、と唸ってしまう。
何故、高村薫がこれほどまでに人気があって、★が平均して4個以上というのは、今の活字離れの時勢にあって、まことに不思議だ。

私のように偏屈、変人といわれる人が熱中するなら理解も出来るが。

いずれにしろ、軽薄、短小、いい加減、人気伺い、金儲け、売れ筋迎合、ベストセラーミーハー人気などなどと(私が)言っている本屋のワゴンの中にあって、この作品は光り輝いている。

*

照柿
マークスの山

と続いて読んできたのだが
少し、異色を感じた面もありながら、
確かに、高村薫を女性と思っていなかったというひとが多くいるだけある。
そういう色合いがある筆が濃く出ていた。

でも
どれをとっても
素晴らしい作品ばかりだ。

--

マークスの山は直木賞作品で、内容を見てもかなり分かりやすい。

レディ・ジョーカーは、壮絶で予想さえも出来ないタイトルからして、「よし、高村薫を読むぞ」、ぐらいの気合がいるのかもしれない。

(では、感想を)

合田と加納という用意された二人の人物に、自分の内面を内面から見つめさせたり、あるいは客観的に静観させたりさせる。さらに、静観ではなく激しく批判的にも見ることもあったかもしれない。二人の違った視点を絡め合わせることもある。

人間である以上、誰もが持ち合わせている自省観念を、多角的な視点で扱いながら、練り上げた物語を現実味の帯びたドラマへと仕立て上げてゆく。

次のページが重苦しく厚い壁のように見えることもある。しかし、読者は遅々として進まないドラマの次を待っている。些細な展開の中に散りばめられた日常的な変化も見逃してはいけないし、その心理も御座なりにできない。

美文でもないし、報道記事風でもない。やはり、小説なのだと思う。これが、朝日や読売新聞社社会部のドキュメント記事のように綴られていたら面白いかというと、決してそうでもないだろう。

どんなキャラが好きか、嫌いか。ある方にそう問われたことがある。考えたこともなかったというのが正直なところで、私という者が人一倍に好き嫌いの感情がはっきりしている人間でありながらも、冷静で淡々と成り行きを見守っていることに改めて気づかされた感じだ。

感動を伴わないわけではないし、好き嫌いも無くはないが、そういうものは本質とは関係なく、男と女の間でいうならば許し合える程度のものかもしれない。それよりも、登場人物たちのそれぞれが自省と対話をする姿や心の叫びを、あたかも自分のことのように読み耽るとき、好きとか嫌いという観念が引き潮のように見えてなくなり、物語の中を流れる冷静で眩しいスポット光源が私の心に差し込んでくるのを感じる。

高村薫の小説作法が、先にも書いたが、美文でもなく、また分かりよいものだと言えるようなものでないだけに、この作家の人気の理由は、この泥泥として汗臭いような小説自体にあるのではないだろうか。松本清張が新しい推理小説を開拓したというなら、高村薫は再びジャンルを超えた社会派といえる。

残念ながら私は、商法や企業法、物権、債権などには縁の無い日常でして、この物語のひとつのポイントを読み解いてゆくのは難しい。法学や経営学の知識がもう少しあればと思うものの、一般社会で暮らすには実際には不自由もしないので、この小説レベルの話はお茶の間ドラマを見る感覚でサラリと流させてもらった。

しかしながらそういうことを片目で見ながら、高村薫がさり気なく読者に投げかける社会悪や不条理への感情は、少し物語から脱線しながら作者自身の新聞論説なども思い浮かべて考察したくなってくる。(これはこの本の感想では無いので省略)

高村薫という人は、ルポライターでない分、小説がルポっぽくない。詩人で無いから詩的でない。少しドタバタでギクシャクなところがあったが、これだけの長編ならば大きく差し引いて、読者の読書観を捻じ曲げてしまいかねないほどの刺激的な作品だになっている。

合田警部補(のちに警部)の、弱弱しい面と知的な面と不良でヤクザな面が、素晴らしくミックスされて、程よい加減だ。人物を取り上げると、どの人も味が出ている事に気がつく。これは高村薫の普段からの人間洞察力としか言いようがなかろう。

「東電OL殺人事件」のような作品をこの人に書いてもらえたら、私は痺れて動けなくなるだろうな。
| 2010-05-28 19:17 | 読書系セレクション |


照柿 高村薫

刑事事件や殺人が起こるが、決してサスペンスや推理モノではないし、高村薫がそんなジャンルの人ではないと友人が教えてくれた。だが、何故に第1冊目に着手できなかったか。この人が女流作家でありながら、性別を感じさせないほど--男性だと思わせてしまうほど--の作風だから読み切る自信がなかったのかもしれない。

解説は「罪と罰」と書くが「赤と黒」や「レ・ミゼラブル」でもよい。そんな作品が持つ浮き足立たない筆致がファンを惹きつけるのだろう。お笑い芸人が観客をダシにしたネタをやったり自分自身が笑いながら演じるのに似た小説が蔓延する昨今、このように朗読家の頬が締まるようなペンは小気味よい。

そういうわけで、話は全く進展しない物語でありながら、これでもかというほど作者のアクのきいた風景や心理の描写に引きずり込まれてゆく。

ブドウのような黒目がちな女性・・・のような記述があったところで私はこのオンナに惹かれてしまう。二人の男も泥臭い。埃臭い。そして場面のひとつひとつが、セピアのように暗い。熱い。うるさい。
もう読むのをやめよう。別の作品を読んだあとに続きを読もうと、何度も途中で考えるのだが踏みとどまる。それには私なりの理由があった。

自分の人生、それなりに心当りのある葛藤がある。なかには、醜いことも汚いことも、歓びも悲しみも。
小説というのはあくまでもフィクションであるが、その作家の意思が私の心の性感帯のようなところを--それはエロチックなものや性的なものでは決してなく、もっと神経に近いようなものですが-擽る。

それは、麻薬のようであり、かつて恋におぼれて身体中が融けてしまいそうになった瞬間のように、もうひとつの自分の世界に堕ちてゆける。

照柿を「罪と罰」と比喩する人にも、私のような誰にも話せない過去があるのかもしれない。
| 2007-03-28 10:50 | 読書系セレクション |


高村薫 マークスの山(上・下)

上下を一気に読み抜けてしまいたい気持ちが逸るにもかかわらず、密度の濃さになかなか進まないという状況に脳味噌の片隅がやめちまえと反応するなかで、どうしてもやめられない理由が見つからないまま、ミステリアスの裏に秘められたドラマが、じっくり、どっしりと感動を蓄えさせてくれて、最後まで読ませてくれた。

高村薫の作品は読んで即座に嫌いになる人もあれば、私のように連続的に夢中にならないものの、また再び買ってしまったという人もあろう。

彼女の筆は、考えに考えを重ねて書き留められているのがよく分かる。そいつが、ある種の作品を噛み砕いて味わいたがっている私の気持ちに突然襲い掛かってくるので、何が読みたいわけでもミステリージャンルが好きなわけでもないのに、自分を苛めるような、ちょっとヒステリックな衝動のに似たものを伴ないながら、私はこの人の世界に呼び込まれてゆく。

「照柿」を先に読んで随分と間を空けている。相当に勇気を持って恐る恐る読み始めたというのがホントのところ。こんな作品、最後まで読み切る人が居るのだろうか、と頭の中で考えながら一行一行を着実に読み進むとそれはあっという間に数ページ進んでいて、密度の濃い濁流のようなもののなかに(という表現が果たしてただしいのか分からないが)、時間や情景、人々の心理までも圧縮してくれている。

真剣勝負で読み進む。単にストーリを追い、面白さを味わうだけの作品ではない。他人が勝手に映像化することなどは絶対に不可能だろう、もしできたとしてもそれは全く別物と化してしまい間違いなくこの作品の本質を生かせないに違いない、と思える作品であるだけに、物語の展開と数々のシーンを私自身が作り上げ、共感し、考えながらというある種の苦難のような読書になるのだが、そのあたりがこの人の作品の魅力であり多くのファンが居る理由であろうか。

私の普段の仕事にも多かれ少なかれ関係していることもあるのだろう。法のもとで管理されながらも絶大なる権力というものを持ち、その背中に万人からも監視されているという日常の我々の心理をも緻密に組み上げているところなど、業界人から見ても精巧に書かれていて面白い。

ミステリアスな題材を扱う物語であるのだが、決してそのようにあらかじめ決められたような言葉でジャンルを決めて欲しくない小説だ。テーマも構成も充分に吟味された味がある素晴らしい作品だと思う。

(直木賞作品です。こういう作品を読んだあとは直木賞に大きく拍手を送りたくなります。)
| 2008-08-04 08:57 | 読書系セレクション |

« 関野 吉晴 グレートジャーニー―地球を這う | トップページ | 竜馬がゆく 司馬遼太郎著 »

BOOKs【読書室】」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/46088/49795246

この記事へのトラックバック一覧です: 高村薫 3冊:

« 関野 吉晴 グレートジャーニー―地球を這う | トップページ | 竜馬がゆく 司馬遼太郎著 »