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2010年9月15日 (水曜日)

海まで。あなたの住む入り江まで、ゆく

あなたの住む入り江まで
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国道を街中へと曲がるとそこからは一気に海岸までの一本道で、小さな交差点を幾つか通り過ぎ、海が見える場所まで来て私はほっとため息をついた。

その人の住む入り江まで幾つほど集落を越えて行かねばならないのか、きちんと調べたわけではなかったものの、行き当たりばったりでもなく、発電所の煙突と湾内の生簀を目印に、目標はもう少し奥の方だなと決めて、船の浮かぶ海を右手に見ながらゆっくりと進んだ。

電話をしなきゃ。このまま集落が寂れてゆけばもう一度街中まで戻ることになるから気をつけなきゃ。そう考えている間に港の防波堤まで辿り着いて、道は行き止まりになってしまった。

ちょうど幸運なことにそこにボックスがあり、そそくさと電話をした。ボタンを押しながらも様々な興奮が過る。その人の声を耳にしたらまず何を喋ろうか。子どものようなときめきが次々と頭に浮かんでは消えてゆく。そして彼女が電話に出て、久しぶりに声が飛び込む。

何て話し出したかさえも記憶にないが、港にいることを伝え、彼女の家がどのあたりなのかを尋ねた。私の場所が行き止まりではなく、少し手前からもうひとつ山を越えると水産研究所まで行けて、そちらが行き止まりで、彼女の家はその前だと教えてくれた。近くまで行けば迎えに出てくれるというので、私はもう一度バイクに跨った。

越えねばならないひとつの山というのは小高い丘のようなもので、雑木林の間から湾の様子を垣間見れる遊歩道のような道が1本ついている。自転車なら10分ほどだっただろう。車がすれ違うには少しせまいくらいのくねくね道を、胸を弾ませてゆく。

前を1台の軽ワゴンが走っているのみで、竹の枯葉がアスファルトを覆い、いかにもその集落の人たちだけの生活道路という趣きが続く。

ワゴンが道路をそれた直後、道は急な下り坂になって堤防に突き当たって行き止まる。振り返ると一軒だけ家があって、さっき前を走っていたワゴン車はあの家に入って行ったことがわかる。

バイクをUターンさせてそちらを見ると日傘を差した彼女が庭から続く石段を降りて、公園にある素敵な散歩道のような一筋の垣根をやってきた。

「姉が前を走っていたの。バイクが1台、浜に行ってしまったって言うてましたから」

そう声を掛けてくれた瞬間、手を振る姿を見てドキドキしていた自分が嘘のように冷静に変化し

「久しぶりです。元気そうで何より…」
と言いかけ、ぐっと来るものを噛み締めて飲み込む。目頭が熱くなるのがわかる。思わず太陽を見あげて目を擦った。

海は凪いでいた。

「こんな素敵な景色の街に住む友だちが、ひとり増えて目茶目茶喜んでいます」
首筋に滲み始める汗を、海風がすっと拭ってゆく。色白の化粧もしない彼女が日傘の下で微笑んでいる。海を背にして山を見あげると、蜜柑山が広がっている。風向きが変われば、蜜柑の芳しい香りが漂うのだろう。

時間が過ぎるのが惜しくて仕方がない。
行野浦


| 2009-05-13 08:48 | 日記系セレクション |

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