コーヒーをホットにかえる寒露かな
前略。
朝夕も時折りひんやりとする日があり、秋がやってくることを子供のように喜んでおります。
高三の娘がまだ赤ん坊のころ、休日になるとその子をおぶって人影疎らな嵐山渡月橋のたもとへとしばしば散歩に出ました。憩いのひとときでした。
静かに秋を待ち続ける小倉山の峰に、霧のかかった朝もあったのが懐かしい。やがて一面をもみじに覆われる山々は、ひっそりとしていました。
きょうからモーニングコーヒー。ホットにかえました。
━・・━━・・━━・・━
そんな書きかけの手紙を置いて、しばし考えにはまりゆく。
きょうは寒露。
昔を振り返って、あのころはよかった・・・と誰もが一度は口にしたことがあろうかと思う。果たしてほんとうに昔は良かったのだろうか。
なかなか筋書き通りに行かない仕事。苛立ちを募らせながら、大いに愚痴を言い、投げやりにもなったこともあった。そんな日々がどうして今頃になって美化されてくるのだろうか。
端的に言えば、対岸まで急流を漕ぎ渡ったのは、あれは過去のことになったからだ。過去になったらもう二度と戻らない。急流に漕ぎ出すことはない。いや、今そんな勇気はないというのが正しい。
一生懸命漕ぐ私のボートに、強くて重い抵抗成分となって襲い掛かる急流。私はこれに逆らい、激しく波しぶきを上げて自分に降りかかる些かの脅えも感じず必死だった。
理屈を書くのはよそうじゃないか。必死になることが少なくなったね、程度にしておこう。
━・・━━・・━━・・━
それはそうと、旅の話はどうなったんだい。
ええ?
二週間延期だって。
ほんとに。
だって、二三日前から再読し始めた「道頓堀川」(宮本輝著)にどっぷりなんだ。
ひとりにしてくれ、読み終わるまでは。
______________
【銀のマドラー・塵埃秘帖・寒露篇】
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