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2000年10月 2日 (月曜日)

三宅島の思い出  (小さな旅シリーズから)

小さな旅


「三宅島の思い出」

人々が、まったくの無関心を装っているように見えるのは私だけであろうか。三宅島の都民が避難をしてから幾日も過ぎているのに、大自然の怒りに対して、都知事の権力や金、ご自慢の「三軍」はまったく役にたっていないようにしか思えない。危険が街に忍び寄ってくるのは、災害でも侵略でも同じだと誤認しているからか。おびえる庶民の心がまったくわかっていないのだろう。火山活動が収まって島に帰れたら、東京都から独立して静岡県とか三重県の自治区になる運動でも起こしてみたら面白いかも知れない。

さて、私の旅のお話に入ります。約20年前の11月に私は三宅島を旅しました。それは、寝袋を背負っての野営旅でした。きっかけは偶然にやって来る。秋の大学祭も間近に迫り、ひょっこりと講義に出かけた私に、花川君という友人が「三宅島に行くぞ、お前も一緒に行くか?」と誘ってくれて、寝袋を借りて、古くて小さなディパックに詰まるだけ服を押し込んで、有楽町あたりの港からその日の夜中に船に乗ったんです。

東京湾から都心を振り返る夜景がとても綺麗で、無数の星を散りばめたように……という表現がふさわしい。夜景というのは東京タワーのような高いところから見おろしても綺麗ですけど、海上から眺めるのが本物だとこの時に初めて知った。船は伊豆七島を順に巡るのだろう。三宅島に着いたのは未明の時刻に真っ暗な岸壁に降り立つ。やけに釣り人が目立ちました。ひんやりとした空気の中で、東西南北もわからないまま二人は歩き始める。いったいどんな島なのかさえ知らないしわからない。一種の冒険気分に満ちていました。

太陽が水平線に姿を見せた。なるほどーという驚き。船着場の近くは飛行場だった。真っ青な海に白い光が差してくると、雄山の姿が青空に映えた。噴煙はほとんど見えない。一周で40キロほどの島を二泊三日の計画で歩いて回ろうという計画である。昔の噴火の爪痕が残る火山の裾野をひたすら歩き、時には原始林のように深い森を抜けて火山の頂上を目指したりした。

この島はバードアイランドと呼ばれている。しかし、鳥(バード)の名前を私は知らなかった。温帯の森の植物の名前もまったく知らなかった。都会で暮らしていると数々のブランドが目に飛び込むように、ここでは植物や動物という大自然のブランドが満ちていた。歩き回って疲れ果て、海岸にある避難小屋で、寝袋にくるまって寝た。避難小屋といっても屋根だけの吹きさらしで、展望台か東屋の姿を想像してもらえばいい。米を炊いて、サンマの缶詰を温めておかずにした。近くの酒屋で段ボールをもらってマットにした。寒冷前線が通過し一時的に冬型になったために夜は寒く、風がびゅーびゅーと音をたてて吹いた。寒くて眠れない時間が過ぎて、やがて夜が明け始めた。

貧乏な旅だった。しかし、こういう旅を経験することは必要だと思います。ひたすら歩いて島の人と語らい、民家の隙間を通り抜け、太平洋に臨む海岸では強風に吹き飛ばされそうになり、波の華というものに出会い、素朴な集落の生活の息吹にも触れた。若干二十歳。旅の感動と出会う。

あれから二度の噴火があり私が歩いた島道もその面影を変えたことだろう。溶岩が流れた跡は時間とともに風化しながらも、数十年に一度の噴火を繰り返し、火山は住民を脅かす。無限大の自然力を素直に受けとめることは大切である。共存するというある種の動物的な感性で、島の人々は火山と共に暮らしている。

私の旅の原点のひとつはこの島にあった。自然の中で夜を明かし、ひたすら歩き続けること。旅は目的を持つものではなく経過を愉しむもの。そういうゆとりは、管理された社会から脱出してこそ得られるもであるということ。島の人々の気持ちは、コンクリートの中で暮らす人には到底理解できないものであること。そういうことが体感できるから旅は素晴らしい。


October2、2000

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